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2009年 06月 09日
「行き交う人もまた旅人なり」
これは芭蕉の句の一部だけど、僕はこの言葉の響きが好きだ。 ある夏の夜の記憶... 僕は終電に乗り、最寄りの駅の階段を改札に向って下りていた。 目の前にはへべれけのおじさんが、ぐらぐら揺れながらやはり階段を下りている。 危ないに感じだなぁと思って見ていたら。 案の定、足がガクンとなって階段の途中で倒れ込むように座りこんでしまった。 「だいじょぶっすかっ」と声を掛けてみた所。 「だいじょうぶ、だいじょぶ。今日は酔っぱらっちゃったよ〜」と機嫌のいい調子でまさに正解の答え。 そのままなんとなく〜改札まで付き添い。 僕は家の方へ向う為、線路沿いの路を右へおれることを告げ。 おじさんは、駅まで自転車で通ってると言うので駐輪場の方へ向っていった。 別れ際、危ないから自転車には乗らずに帰るように言ったら、 「だいじょぶ!.....不思議....」と答えてきた。 フシギって何?危ないなぁ...と思いつつ、家路を歩いていると 後ろの方から自転車のベルを鳴らす音が聞こえた...。 聞こえてから間もなく、僕のすぐ横をビューと自転車が通り過ぎ、ここぞとばかりの急ブレーキ。 目の前でおじさんが「どうだ!」とばかり振り返り僕の方を見ている。 はいはい...たしかにスゴいですよ〜歩くのもおぼつかないのに自転車にはちゃんと乗ってますよっ。 と心の中でつぶやいてみる。 すると突然に「キミは旅人か...?」 自転車に乗りながらおじさんが訪ねてきた。 確かにその時僕はリュックをしょってたし、酔ったおじさんの眼にはそう見えたのだろう。 「いえいえ。違いますよ〜近所ですから」と僕は答えた。 おじさんは自転車から降り、僕の横にきて歩き始めた。 「よし!これから家で呑もう!今日は泊まって明日出発すればいい〜!」 ....だから旅人じゃないし。 その後、こんな真夜中にお邪魔したら家族の迷惑になるとか、 ホントに近所だからと言ってもいっこうに聞く耳持たず。 おじさんは空を見上げて 「月...綺麗...不思議」 「...不思議」 と不思議を連発していた。 そして僕はなんだかんだで結局はおじさんの家の前までノコノコ来てしまった。 しかし、ここで上がり込むのはさすがにマズいと思い。 おじさんが玄関を開けたのをきっかけに、 「じゃあ!僕はここで」と可能な限り強く言葉を放った。 おじさんは僕を見ながら、なんとも言えない表情をして無言でサッと手をあげた。 僕はそれを確認すると、やや早い足取りでその場を去った。 その去り際、僕はなんとなく、出来るだけ旅人に見えるように心がけてみた、 というか。あのおじさんの表情と手の挙げ方を見て。 僕はホントに旅人のような気持ちになっていたのかも知れない...。 「行き交う人もまた旅人なり」 春夏秋冬巡りながら、出会い、別れ、また出会う。 そういう中で自分とは違う人生がそこに確かに存在してて、 自分もまた誰かにとっての行き交う人であることを実感できる。 この句の言葉の響きにはそういうことを想像させるものがあるように思う。 あと、ちなみにおじさんの家はホントに近所で〜僕の家から徒歩10分の所にあります...。
by nyazin
| 2009-06-09 20:28
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